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満月の狼女帝(1)

またまたおひさしぶりです。
更新止まっていてすみません。

暑さにやられている、そんな日々。

本当は園芸部か淫魔学園の続きを書こうと思ったんですけど、思うように書けないので新作を書きます。
とりあえず獣化。





 外は満月だった。
 それも、不気味なほど蒼い――。

 塾を終えた伸彦は、近道になるからと駆け足気味で公園の中を通り抜けていった。
 公園の中は蒼白く照らされていた。ところどころにぽつりと聳える街灯のせいではない。明らかにこの満月のせいだった。
 しばらくすると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「た、助けてくれ……」
 なんだ?
 伸彦は立ち止まり、ふと周囲を見渡す。
「助けて、くれ……」
 掠れてはいるが、明らかに男性の声だった。伸彦は声のする方を見る。
「お、狼が……」
 声の主であろう男性を見た瞬間、伸彦は目を丸くした。
 そこにいたのは、まだ若いサラリーマン風の男。まるでゾンビのように、身体を地面に這わせながらこちらに手を向けている。よく見ると男の目には濃いクマも出来ている。
「大丈夫ですか?」
「狼に、襲われて……」
 男がゆっくりと近付いてくる。
 ――狼?
 伸彦は頭を抱えながら、男のほうに駆け寄った。
 その瞬間、
「に、肉だ……」
 男はゆっくりと口を開けて、八重歯を見せ付けた。いや、それは最早“牙”といったほうがいいかもしれない。
 先ほどまで苦痛に歪んでいた男の顔は、一瞬にしておぞましい笑顔になった。まるで、獲物を見つけた“獣”のように――。
「肉、にくをくわせろ……」
 男は上体をのっそり起こして、そして……。
「ニクだあああああああ!」
 牙をむき出しながら、両手で伸彦の肩を強く押さえつけた。
「ひっ!?」
 悲鳴を挙げる間もなく、伸彦の身体は地面に押し付けられる。
 ――なんだこれは!?
 目の前の男は、最早人ではなかった。形こそ普通の男であるものの、そこにいたのは間違いなく“獣”――。正確にいうならば“狼”だった。
「待ちな!」
 どこからともなく、声が聞こえた。女性の声だ。
 男の動きが止まり、そちらのほうを向く。伸彦も思わず同じ方向を見た。
「そいつはやめておけ。食うならこっちを食いな」
 ドサッ!
 男の傍に、何かが投げ置かれる。
 それは肉の塊だった。もちろん、明らかな生肉だった。
 男はそれを見るなり、伸彦から離れてそれにゆっくりと近付いていった。
 そして、
「グルルルルルル……」
 唸りを挙げながら、かぶりつき始めた。その光景は最早狼そのものだった。
「しっかり食えよ。なんせ、今日は大事な日なんだからな」
 ――大事な、日?
 伸彦は疑問符で一杯だった。
 しかしそれだけでは終わらなかった。
 しばらくして、男は途中で食うのを止め、ゆっくりと立ち上がる。
「ぐ、ぐああああああ!」
 先ほどよりも強い唸り声を挙げた。
 そして、月の光に照らされながら、男の顔は更におぞましい表情になる。
 ビリッ!
 男が着ていたスーツが、突然勢いよく破れた。そこから男の上半身が露になる。
 ――な、なんだよ、これ。
「うがああああああああ!」
 最大級に強い唸り声。しかし、その声は少しずつ甲高くなっていった。
 変化はそれだけではなかった。
 短髪だった男の髪が次第に伸び始めた。同時に、身体も少しずつ丸みを帯びてくる。
 伸びたのは髪だけではない。男の手から、異様なほどの毛が生え始めた。
「あ、あがががががが!」
 歪んだ男の表情が、次第に落ち着きを見せてくる。しかし、そこにいたのは全くの別人だった。
 男の身体は完全に丸みを帯び、乳房も膨らんでいる。手と足にはおびただしいほどの毛が生え、鋭い爪が覗き見える。髪も長くなり、そしてその間から、何やら獣の耳が飛び出していた。
「あ、あが、が……」
 男はもう男ではなかった。獣耳の生えた、完全な“女の狼”。そうとしかいいようがなかった。
「完成。これで六人目だね」
 呆気にとられていた伸彦は、はっと後ろを振り返った。
 そこに、一人の女性が立っていた。
 紅く長い髪をなびかせながら、牙を剥きだす女性。その頭部には、先ほどのサラリーマンだった男と同じく獣の耳が生えている。
「な、なんだこれは……」
「教えてあげようか、ボウヤ。その男はね、あたしらの仲間になったんだね」
 ――仲間?
 先ほどの男は、最早完全な狼女となり苦痛とも快楽とも、絶望とも希望とも取れない表情を浮かべている。
「六人目も、なかなか可愛い子になったねえ。フェンリル様もさぞお喜びになられるだろう」
 こんな、こんなことが――。
「さて、これで六人目。あと一人で、フェンリル様が復活なされる」
 女性は口の周りを舐めまわし、伸彦のほうを見た。
 伸彦は歯を震わせながら、彼女を見る。
 彼女もまた、獲物を見つけた“狼”の目をしていた。

「そういうわけだからね、ボウヤ。アンタにもあたしらの“仲間”になってもらうよ」

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