園芸部の魔女(2)
園芸部の魔女2回目です。
妖精の定義って結構曖昧だったりするんで、色々と悩みました。
しかしあれだ。そろそろ先生の存在感がなくなってきそうで怖い……(汗)
「この種は非常に珍しい花でね、先生が学生時代に研究室の人から貰ったものなのよ。この種を六粒あげるから、うち三粒を学校の花壇に、そして残り三粒をおうちのプランターか鉢に植えなさい。そうすればすぐに……そうね、一晩ぐらいで綺麗な花が咲くわ」
放課後、茉莉は耳掻きに乗りそうなぐらい小さな種を六粒、封筒に入れて手渡した。
茉莉の言葉に従い、空也は学校の花壇の空いたスペースに種を三粒植えた。そして下宿しているワンルームマンションのベランダにある鉢に残りの三粒を植えた。
「先生はあぁ言ったけど……そんなにすぐに咲くのかな?」
空也はじっと鉢を見つめた。当然、花どころか芽すら生える気配がない。
「だよね。ま、いいか。今日はもう寝よう」
ベランダから出ると、空也は明かりを消して寝床に潜った。
「ええ、彼は疑うことなく種を受け取りましたわ。あとは今夜、最初の“夢”を見るかと思われます。はい、今後の経過も忘れずに逐次報告しますわ。なんていったって、彼は私たちの計画になくてはならない存在ですからね……」
目の前に花畑が広がっていた。
子どもの頃、チューリップの歌を口ずさみながら駆け回った花畑に似ていた。
しかしそこに咲いているのはチューリップではなく、楕円形のオレンジ色の花弁が何枚もついた見たこともない花だ。
「ここは……?」
気がつくと、空也もその花の上に座りこんでいた。
花畑の思い出に浸っていて今まで気付かなかったが、その花はまるで自分を包み込むほど大きいのだ。
――いや、違う。
花が大きいのではなくて、空也自身が小さくなっているのだ。
「なんでこんなところに……これは、夢?」
「ねぇねぇ、君」
ふいに背後から呼び止められ、空也は後ろを振り返った。
そこにいたのは空也と同じぐらい、いや、もう少し小さいくらいの少女。長い金髪で少し幼い顔立ちをした、小柄な印象だ。クリクリした目が可愛らしく、一見人間と同じ姿をしているが、どこか違う印象を受けた。
彼女が着ている青いレオタード状の服の背中から、羽が生えていたのだ。黄色と黒を基調とした、アゲハ蝶の羽と似ていた。
「何よ、そんなにじっと見ちゃって」
「あ、いや……色々と混乱していて。ていうか、君、その羽……」
「ん、羽? 羽なら君にもついているでしょ」
――えっ?
そこでようやく、空也は自分がどうなっているのか気付いた。
空也が身に纏っているものは、彼女と同じレオタード状の衣服。ただし色は白い。そしておそるおそる背中に手を持っていくと、ヒラヒラしたものを背負っているのに気がつく。そしてもうすこし触ってみて、それが自分から生えているものであることをようやく理解した。
更には、レオタードの胸がやや膨らんでおり、それが自分自身の乳房であることを知った。
「な、何これ?」
「何って、君、私と同じ妖精じゃないの?」
「よ、妖精?」
頭がますます混乱する空也だが、ふとそこでひとつの答えが出た。
――ああ、これは夢なんだ。
「あはは、なんだ、夢か……」
「……変な子」
男であるはずの空也が、女の子の、しかも妖精になっている。
しかしそれが夢ならば、別に何の問題もない。
それならそうと、この夢をとことん楽しんでやろうと空也は考えた。
「まぁいいわ。私はティアっていうの。君は?」
「ボクは空也」
「ボク? クウヤ? ふふっ、なんだか男の子みたいね。もしかしてここには初めて来たの?」
「う、うん」
「じゃあ私が案内してあげるね。君のことクウちゃんって呼んでいい?」
「うん、いいよ」
「わぁい。それじゃあいきましょう」
「ふふっ、計画は順調ね。よかったわね、空也くん。夢が叶って。あ、でもこれも夢か……けどいずれ現実の世界でも叶えてあげるからね。ティアちゃん、あの子を闇の世界へと誘う役目、しっかりと果たすのよ。ああ、楽しみだわ……あははは――」
花畑で無邪気に遊ぶ二匹の妖精を眺めながら、“魔女”はこの先を想像して笑っていた。
妖精の定義って結構曖昧だったりするんで、色々と悩みました。
しかしあれだ。そろそろ先生の存在感がなくなってきそうで怖い……(汗)
「この種は非常に珍しい花でね、先生が学生時代に研究室の人から貰ったものなのよ。この種を六粒あげるから、うち三粒を学校の花壇に、そして残り三粒をおうちのプランターか鉢に植えなさい。そうすればすぐに……そうね、一晩ぐらいで綺麗な花が咲くわ」
放課後、茉莉は耳掻きに乗りそうなぐらい小さな種を六粒、封筒に入れて手渡した。
茉莉の言葉に従い、空也は学校の花壇の空いたスペースに種を三粒植えた。そして下宿しているワンルームマンションのベランダにある鉢に残りの三粒を植えた。
「先生はあぁ言ったけど……そんなにすぐに咲くのかな?」
空也はじっと鉢を見つめた。当然、花どころか芽すら生える気配がない。
「だよね。ま、いいか。今日はもう寝よう」
ベランダから出ると、空也は明かりを消して寝床に潜った。
「ええ、彼は疑うことなく種を受け取りましたわ。あとは今夜、最初の“夢”を見るかと思われます。はい、今後の経過も忘れずに逐次報告しますわ。なんていったって、彼は私たちの計画になくてはならない存在ですからね……」
目の前に花畑が広がっていた。
子どもの頃、チューリップの歌を口ずさみながら駆け回った花畑に似ていた。
しかしそこに咲いているのはチューリップではなく、楕円形のオレンジ色の花弁が何枚もついた見たこともない花だ。
「ここは……?」
気がつくと、空也もその花の上に座りこんでいた。
花畑の思い出に浸っていて今まで気付かなかったが、その花はまるで自分を包み込むほど大きいのだ。
――いや、違う。
花が大きいのではなくて、空也自身が小さくなっているのだ。
「なんでこんなところに……これは、夢?」
「ねぇねぇ、君」
ふいに背後から呼び止められ、空也は後ろを振り返った。
そこにいたのは空也と同じぐらい、いや、もう少し小さいくらいの少女。長い金髪で少し幼い顔立ちをした、小柄な印象だ。クリクリした目が可愛らしく、一見人間と同じ姿をしているが、どこか違う印象を受けた。
彼女が着ている青いレオタード状の服の背中から、羽が生えていたのだ。黄色と黒を基調とした、アゲハ蝶の羽と似ていた。
「何よ、そんなにじっと見ちゃって」
「あ、いや……色々と混乱していて。ていうか、君、その羽……」
「ん、羽? 羽なら君にもついているでしょ」
――えっ?
そこでようやく、空也は自分がどうなっているのか気付いた。
空也が身に纏っているものは、彼女と同じレオタード状の衣服。ただし色は白い。そしておそるおそる背中に手を持っていくと、ヒラヒラしたものを背負っているのに気がつく。そしてもうすこし触ってみて、それが自分から生えているものであることをようやく理解した。
更には、レオタードの胸がやや膨らんでおり、それが自分自身の乳房であることを知った。
「な、何これ?」
「何って、君、私と同じ妖精じゃないの?」
「よ、妖精?」
頭がますます混乱する空也だが、ふとそこでひとつの答えが出た。
――ああ、これは夢なんだ。
「あはは、なんだ、夢か……」
「……変な子」
男であるはずの空也が、女の子の、しかも妖精になっている。
しかしそれが夢ならば、別に何の問題もない。
それならそうと、この夢をとことん楽しんでやろうと空也は考えた。
「まぁいいわ。私はティアっていうの。君は?」
「ボクは空也」
「ボク? クウヤ? ふふっ、なんだか男の子みたいね。もしかしてここには初めて来たの?」
「う、うん」
「じゃあ私が案内してあげるね。君のことクウちゃんって呼んでいい?」
「うん、いいよ」
「わぁい。それじゃあいきましょう」
「ふふっ、計画は順調ね。よかったわね、空也くん。夢が叶って。あ、でもこれも夢か……けどいずれ現実の世界でも叶えてあげるからね。ティアちゃん、あの子を闇の世界へと誘う役目、しっかりと果たすのよ。ああ、楽しみだわ……あははは――」
花畑で無邪気に遊ぶ二匹の妖精を眺めながら、“魔女”はこの先を想像して笑っていた。